すり替わったアラミス―再会①

久しいぶりにパリに来たアトスは、トゥールネル街にあるスカロン神父の家に向かっていた。 
 

銃士時代はかなり無茶をやったアトスも今ではすっかり落ち着き、サロンにも顔を出すようになった。先日ダルタニャンがブロワに訪ねに来たときマザラン派として一緒に戦わないかと誘われたが、元来マザランに不信感を抱いていたアトスは彼の申し出にすんなり答えることはできなかった。かといってフロンド派に与するほどフロンド派のことをよく知っているわけでもない。今回たまたま用事があってパリに来たのだが、スカロンの家でフロンド派のサロンがあることを聞きつけ、顔を出してみることにしたのである。


アトスがサン・トレノ街を通り抜けスカロンの家の前に着くと、入り口はかごかきや馬や使用人たちでごった返していた。人波をかき分け家の中に入たアトスの目に最初に飛び込んできたのは、懐かしい友人―アラミスの姿だった。黒曜石の様に美しい黒い髪と黒い瞳を持つ彼は、上には綴れ織りのついた天蓋、下には車輪の付いた大きな安楽椅子にゆったりと腰を下ろしている。その左隣では、車いすに座り、錦の布団にくるまったスカロンがしきりに動いている。アトスはアラミスに挨拶をしようと近づいていくと、アラミスの傍らに腰かけている女性に気が付いた。金の髪と空色の瞳を持つ女性が、時にアラミスの方を見ながら、時に周りの貴族たちと目を合わせながら扇子を片手に何やら談笑している。

その姿を見たとき、アトスは衝撃を受けた。かつての友の―アラミスの姿に瓜二つだったのだ。

―どういうことだ…?

三銃士の1人アラミスは、かつては金髪と、空色の目を持つ美しい銃士だった。余りにも柔和すぎる面立ちとすらりとした体つきに女ではないかなどと噂されたこともあったが。それが16年前、銃士をやめて4年たったある日、アトスとポルトス、ダルタニャンとフォルジュに温泉旅行に出かけたときは、その柔和な面立ちと雰囲気はそのままに、どういうわけだか髪と瞳だけ黒色に変わっていたのである。

―他人の空似、にしてはよく似すぎているが…まさか…。

アトスが自分の抱いた疑問に答えを出そうとしたそのとき、アトスに気づいたアラミスが声をかけてきた。

「アトスじゃないか、久しぶりだね」

いつの間にか黒衣の友人が自分の目の前に来ていた。アラミスはニコリと笑いながらアトスの手を取り、スカロンに紹介した。スカロンの方でもこの新来の客に敬意を表し、にこやかに迎え入れた。次いでアラミスは自分の傍らに座っていた金髪の婦人を紹介した。

「ルネ、こちらはラ・フェール伯爵。ほら、いつも話している僕の古い友人だ。アトス、こちらはルネ。僕の妹だ」
「初めまして伯爵。お噂はいつも、兄から伺っておりますわ」
「お会いできて光栄です。ルネ殿」。

ルネは椅子に腰かけたまま愛嬌たっぷりにアトスに笑顔で挨拶した。アトスもそれを会釈で返す。アトスはもう少しこの女性と話をして自分の疑問を確信に導きたいと思ったが、アラミスがアトスに知り合いの紳士を次々と引き合わせたことで、その望みは叶わぬこととなった。

一通り知人の紹介を終えると、アラミスが口を開いた。

「なぁアトス、久しぶりに会ったんだ。2人で少しゆっくりと話をしないか?」

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